大判例

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福岡高等裁判所 昭和29年(う)612号・昭29年(う)611号 判決

案ずるに起訴状記載の公訴事実につき訴因の絶対不可欠の要件にあたらないその他の事実に不備があつても、真の公訴事実が該起訴状及び検察官の釈明乃至はその立証方法等により明認し得るときは該起訴の効力を失うものではない。かかる場合事実審裁判所は更に検察官に対し公訴事実の追加補充につき釈明を求め場合によつてはこれが追加補充を命じ以て公訴事実を明らかにすべく、若しこれ等の手続を履践しないで直ちに当該公訴事実は訴因の明示を欠き公訴提起の手続規定に違反した無効のものとして公訴を棄却するがごときは審理を尽くさない違法があるといわなければならない。本件昭和二十八年十二月二日附起訴状(以下甲起訴状と略称する)記載の公訴事実第二を見るとその表示に不備がありずさんの譏り免れず延いては原判決指摘の如き批難を受けるに至るのであるが、原審第一回公判調書によれば検察官は甲起訴状公訴事実第二につき松浪新平が十一万五千三百円の債務免除の意思表示をしたものであることは主張しない旨釈明しており、これに原審において取り調べた証拠を綜合すると、被告人は松浪新平から紙代金十一万五千三百円の支払請求を受くるや、その支払に窮した結果、これが支払を猶予させようと企て松浪に対し真実仲村より右松浪から買受けた白洋紙三十六連を騙取されたことがないのに、これを仲村より騙取され目下同人を告訴中であるから今直ちに右代金の支払をすることができぬ、暫らく待つて呉れと申向けその支払を延期させようとしたが、こと発覚し松浪の承諾するところとならなかつたためその目的を遂げなかつたものであることを認めることができる。しかして、刑法第二百四十六条第二項にいわゆる人を欺罔して財産上不法の利益を得るとは、他人を欺罔した結果これを錯誤に陥れその意思表示に基き他人より自己に財産上の利益を取得することにより成立するものであることは原判決の説示するとおりであるが、債務者が債権者に対し債務の支払を猶予させるため債権者に対し虚偽の事実を申向け債権者を欺罔したが、債権者が事の真相を看破し債務支払の猶予の意思表示をしなかつたときは、すなわち犯人において詐欺利得罪に着手しその目的を遂げなかつた場合に該当するので該所為は正しく刑法第二百四十六条第二項の未遂罪を構成するものといわなければならない。以上により甲起訴状記載公訴事実第二につき原審の採るべき措置を考察するに、原審は須らく検察官に対し、被告人は紙代金債務十一万五千三百円の支払免除若しくはその支払猶予のいずれを意図したのか、その不法利得は債権者の意思表示によりその目的を遂げたのか、或はその意思表示がなくその目的を遂げなかつたものであるかにつき釈明を求め以てその事実の真相を明かにした上その訴因を追加補充させると共にその罰条の追加変更をも為さしめる措置を講じなければならない筋合である。しかも右の如き訴因の追加補充並びに罰条の変更は右甲起訴状公訴事実第二の絶対不可欠の要件に関するものでないのは勿論該公訴事実の同一性を害するものでもない。しかも右の如く訴因の追加補充及び罰条の変更をした当該公訴事実は原審において取り調べた証拠によりこれを証明し得られないものとは認められない。然らば本件甲起訴状記載公訴事実第二につき罪となるべき詐欺事実の明示を欠き公訴提起の手続規定に違反した無効のものである旨説示した上同公訴事実につき公訴棄却の言渡をした原判決はその審理に不尽があり延いては法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、しかも右の違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決中右公訴事実につき公訴棄却をした部分は破棄を免れない。

(後略)

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